新型ペスト(鳥インフルエンザ)の危険性について

第16回健康づくり懇話会総会(2007.10.10) 特別講演 講演録
鳥インフルエンザから新型インフルエンザへ
新型インフルエンザ対策における事前準備と大流行時の緊急対応」
岡田晴恵 国立感染症研究所ウイルス第3部研究員
http://www.yobouigaku-tokyo.or.jp/news/images/071121_okada.pdf
より引用

普通の季節性のインフルエンザは、死ぬのは1000 人に1人くらいで、致死率は0.1%以下くらいです。18人中6人死んだ。高病原性、強毒型の鳥インフルエンザが直接鳥のウイルスのまま人にうつった。10 年前の当時、これはインフルエンザの常識を覆す、非常に驚愕する事だったのです。
(中略)
厚労省の試算では、日本で 64万人死ぬだろうと言われているが、海外のシンクタンク(オーストラリア国立Lowy研究所)では日本の死者を 210 万人と試算している。これは非常に精巧ないわゆるシミュレーションと試算で、Lowy 研究所という優秀なところから出ています。人口密度、新型インフルエンザ発生の可能性の高い地域からの距離、ワクチンや薬などの対策、各国の作っている行動計画、プランですね。それらを相対的に評価している。アメリカは(推定死者数)200 万人です。日本より倍近い人口でも。
(中略)
サイトカインという免疫物質の過剰反応ですから、免疫の活発な若い世代に多く認められ、非常に死者数が多いのです。これは非常に危惧されていて、米国などではワクチン接種の優先順位にはこの 10 代、20 代の世代を中心にしなければいけないという議論があります。日本にはそういう議論はまったくないです。
(中略)
このサイトカインストームは、H5N1型ウイルスだけの特性ではないのです。たとえばスペインかぜ(スペイン・インフルエンザ)の時も、死者数の年齢のピークは24〜29歳くらいです(英国のデータより)。日本でも、スペインかぜ流行当時の新聞では“働き盛りが死ぬ”ということが大きく報道されました。スペインかぜの時にもやはり若い世代が死んで、大流行が過ぎ去った後の社会復興に非常に足かせになった、世界恐慌のトリガーになったという論文はきちんとあります。
(中略)
アフリカもしくは東南アジアは、私が行って思うのですが、ニワトリそのものが非常な財産なのです。ですから感染した疑い、いわゆる死んでいないものをわざわざ殺すということは非常に精神的にも経済的にも大変なことなのです。それで補償金もちょっとしたお金しか払われないという国も財政的にはあって、なかなかウイルスの駆除がうまくいかない。ですから対策が徹底されずに世界の広い地域の鳥の間で流行が拡大してしまった。
(中略)
2006年5月、インドネシアのカロ地区で、家族単位の集団感染があり、海外では大きく報道されました。鳥から人→人→人と三連続して、その時には世界中が震えました。すわ、新型インフルエンザが出たかということになりました。この時、インドネシア政府は日本や米国などの支援を受けながら、WHOの指導下ですぐに患者さんたちを隔離して周囲の住民に行動・移動制限をかけて、タミフルを大量に住民に配布し、ウイルスの拡大を防いで封じ込め、新型インフルエンザになるのを防いだのです。つい2カ月くらい前に論文が出ましたが、数理統計の米国の研究者グループの仕事では、このカロ地区の件ではもう人から人への感染が起こっていたことが数理学的に実証できたという論文が出ていたと思います。ですから、あの時はWHOもインドネシア政府も対策をちゃんとやったものですから、ここで止まったのです。これを放りっぱなしにしておいたらもう新型として出てきたのではないかということが専門家の間では言われています。私はそう思っています。カロ地区の封じ込め対策が功を奏して、時間稼ぎができたという理解をしています。
(中略)
2006年の5月にカロ地区の件が起きた時、いっぺんに米国の企業が現地から撤退し、インドネシアの株価が大暴落したのです。その時にインドネシア政府は怯えたのです。鳥インフルエンザや新型ウイルスにではなく、経済損失に怯えたのです。その後から、インドネシア政府は情報を出すのに、きわめて慎重になった。ウイルスや患者の情報がなかなか十分に出てこないというのは、そういう背景もあるでしょう。
(中略)
H5N1型ウイルスはウイルス学的分類では、インフルエンザウイルスですが、起こす病気はインフルエンザではない、まったく別の全身性の重篤な疾患だということを明確に理解せねばならないのです。
(中略)
特に腸管の損傷が激しいのです。ここで心配なのは、栄養や薬の吸収が悪くなる、特に抗インフルエンザ薬のタミフルは経口投与の錠剤ですから、この吸収が悪くなると想定されている。
(中略)
潜伏期は平均4日。しかし、今はまだ鳥型ウイルスですが、ひとたび人型ウイルスに変化した場合には、ウイルスが体内でより速く増殖することから、発症までの期間は 2〜3日と短くなると想定されます。
(中略)
それからウイルスの排泄期間は大事なことです。潜伏期である、発症の1日前からウイルスを外に出し、発症後2週間と長いのです。つまり、検疫ではこのウイルス感染症は止められないのです。潜伏期は熱もないし、本人にも感染していることがわからないで他者にうつしている状況です。
(中略)
H5N1はまだ鳥のウイルスで、とどまってくれていると考えられます。今のところ、人への感染効率は悪いのです。今まで数十万人がウイルスに曝露されていると考えられます。その中で数百人に感染が成立し、つまり体内でウイルスが増えて感染しているわけです。
(中略)
1997年にH5N1が初めて表舞台に出てきているのですが、2007 年までの 10年の間に、一生懸命に対策して、ウイルスの駆除はしながら、でもどんどん、確実に人型ウイルスに近づいてきつつあって、去年よりもよほどウイルスなどの状況は悪いというのが私の実際の感覚ですね。やはり遺伝子的に、このように人型に近づく変化をしているというのが論文として出てきているわけです。ですから、WHOが「時間の問題」と言っているのは、アバウトではなくて、科学的な論拠に基づいて言っている。
(中略)
このように一義的に、全身感染を起こすか、局所感染を起こすかというのは、開裂部位の構造のたった1つで決まっているのです。たった1つで決まっている開裂部位がHAのH5の部分でも同じタンパク上に乗っているのです。ということは、H5から新型が出た場合には、当然この部位も同じタンパクですから、引きずってきます。だから、H5N1型から新型インフルエンザウイルスが出た時には、全身感染を起こす性質を同時に持つということが強く想定される、これは田代が非常に強調して言っていることです。こういうウイルスが鳥の間で流行ってしまっている。
(中略)
今、WHOは新型インフルエンザに対して、フェーズを1〜6までにしています。4は新型インフルエンザ発生ですが、規模が小さい。5はもう広がって、6はパンデミック、大流行です。今はフェーズ3です。(略)それで大事なことは、新型インフルエンザが発生したら、4、5、6といくのは非常に速いのです。実際には1カ月くらいでしょうか。2〜3週間でもウイルスはかなり流行しますので、今のようにフェーズ3のうちに対策をやることが大事です。
(中略)
日本における健康被害を試算しています。厚労省の今の試算は、25%の人が発症し、受診が2500 万人、入院が200 万人、死亡が 17〜64万人と言われています。先ほど言いましたように、海外のシンクタンクは、死亡は 210万人と言っている。
(中略)
現代は高速大量輸送です。2004年にSARSが1週間で世界中に広がったことからいっても、新型インフルエンザが発生したら1週間程度で世界中に広がってくる。非常に強毒のウイルスだと3 億 6000万人死ぬだろうと言っている人もいます。これは、オスターホルム教授という非常に有名な教授です。国連は1億 4700万人だというふうに言っているわけです。いずれにせよ、大災害に値します。
(中略)
新型インフルエンザというのは、「新型」なので、ウイルスに国民が感染して免疫を持つか、ワクチンで免疫を持つかして、全国民の中のほとんどの人々(6〜7割)が免疫を持つまで新型ウイルスの流行は、やってきます。