ハッシュ動画

200X年X月、ハッシュ動画というサイトが登場した。

そのサイトは、ニコニコ動画のクライアントソフトを真似た、というか丸ごとパクったサイトであったが、動画のアップロードは不可能だった。すなわち、SZBH方式によるコメント集積サイトということである。もう一つの特徴は、検索がハッシュの完全一致以外では不可能なことだった。Winny、Share、Perfect Darkの3種類のハッシュについての検索が可能であった。ユーザによるタグの登録も不可能だった。
ユーザがハッシュ動画に対して、ハッシュ値と再生時間を登録すると(そのハッシュが実際に存在していれば)10分〜1時間程度で対応するボードが完成し、そのURLがユーザに送信される。

というか、URLは、winny動画の場合
http://hashvideo.com/winny/(ハッシュ値)
なので、そのまんまなのだった。

当然、1つのハッシュに対して複数のボードを作成することは不可能である。ただし、時刻の変更は可能であった。時刻の変更はログインユーザが自由に可能ではあったが、画像認証、音声認証、ねこ認証をすべてパスする必要があった。

認証については、はてな認証APIを用いており、かつ、書き込み数、同一内容書き込み数、時刻変更数が多いユーザをランキングにかけ、あるアルゴリズムにてユーザを一定日数banしていた。また、同一IPのユーザの同時アクセス、同時書き込み数は制限が加えられた。

変換後ファイルの拡張子が動画以外である場合、ボードの再生時間は一律10分間となった。

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ハッシュ動画が一躍有名になったのは、とあるU15アイドルのハメ撮り動画が流出したことに起因した。2ちゃんねるにハッシュ動画のURLが張られ、先行ダウンローダ達はその動画の感想を次々と記録していく。

ハッシュ動画はAPIを公開していたため、実際はマッシュアップサイトのURLが記載され、タグ「ふぅふぅ動画」などとつけられ、ついでに関連商品も張られた(アフィリエイトIDはなぜかニコニコ動画宛であった)。

当然、これらの表現は、児童ポルノ法に違反しない。これまで闇の中、あるいは2ちゃんねるのスレッドの奥深くでコソコソと行われてきた作品批評が、より公然と行われるようになっただけのことだ。これまで、P2Pネットワークは、繋がりが薄いネットワークであった。作品についての感想を公然と言い合うことは、許されていなかったのであった。当然、「犯罪者乙」という書き込みも多数見られたが、「ニコ厨はニコに還れ」との反論もありまた大量の作品群の数からして、荒らしの効果は薄かった。

偽物のハッシュ登録やパスワード付きzipファイル登録も行われ、そのような動画は背景がなるたるになったり、堀之内九一郎になったりした。

さて、偶然かどうかは判らないが、流出動画のアイドルは事故死した。この前後から、アイドルのファンによる荒らし、アタック、批判が続出する。その批判の矛先は、認証APIを提供しているはてなにも向けられることになった。

はてなはただちに認証APIの規約を修正し、公序良俗に反しないサイトに限って利用可能であることを付記した。そして、当該サイトに対するAPIの利用を停止した。

すると待っていましたとばかりに、ハッシュ動画はマッシュアップを含めたすべてのサービスをP2P化することを発表、過去資産の移行のため、βプログラムを配布する。

このようにして、P2Pでファイル交換される情報は、メタ情報を持つこととなった。

反社会的なコメントが未管理で集積される自体に、国際機関はP2Pテロリズムそのものであると主張し始める。こうして、P2Pの最後のボトルネックは回線であることが認知されるようになった。回線コスト増に苦しむISPは次々とポートを閉じ、UDP接続プログラムについては、通信パターンを元に頻繁な切断を繰り返した。

もう一つのインターネットが嘱望されるようになったのも、この頃からである。